ボツ作品【葉月物語】あらすじ

 ボツあらすじです。

 このまま使用することはないですが、もったいない精神で載せます。

 決して作品が定まらないからお茶を濁しているわけではない←


【序 章】
 それは、ひとりの少年の運命が決まった日。
 彼はある日を境に戦いに巻き込まれることになる。
 やがて自ら戦いの渦に入るようになった彼の物語の、最初の話が始まる。

 

 

【第一章】
 夏休みに入る数日前、葉月龍二(ハツキリュウジ)は皐希(サキ)という少女を助ける。

 

 彼女は異能を持つ男に誘拐されそうになっていた。葉月も自らの異能を使い、気を失わせる。その隙に皐希の手を引っ張り逃げた。

 

 やや離れた公園まで走りきり、ベンチに座る二人。息を整え、皐希は葉月に礼を述べる。異能を使いこなせる事を褒めると、葉月はそんなことないと、曇った表情で返した。突然立ち上がり、今度は気をつけなよと言って立ち去る葉月。

 

 自宅に帰ると、育て母親の空良(ソラ)が既に帰ってきていた。空良と出会ったのは数週前。唯一の家族だった父の繰奇(ソウキ)が亡くなり、拠所がなくなった葉月の保護者となる為に、わざわざ京都から来てくれた。出会ったその日ですぐに打ち解けられ、本当の家族のように親しく接し合っている。

 

 空良はテレビを見ていた。多摩川沿いで再び変死体が見つかるという報道。それを見て暫くは近づかない方がいいねと葉月に言う。葉月も静かに頷いた。

 

 翌日、葉月は再び皐希と出会う。今度は友達になってほしいと言われ、断る理由もなかったので承諾する葉月。すると皐希は大袈裟だと思うくらい喜ぶ。笑顔でよろしくと言う皐希を見て、葉月も思わず笑みを浮かべ、よろしくと答えた。

 

 あれから何回か会話を交わす二人。しかし突然皐希と会わなくなる葉月。

 

 忙しいのだろうか……そう思う葉月の前に、一人の若い女性が現れる。

 

 女性は出会うなり突然「自分の真実について知りたいか?」と聞いてくる。不審者だと感じた葉月はなるべく彼女に近づかないように通り過ぎようとした。しかし、横に並んだ途端、今度は

 

「皐希と出会ったのは必然的だった。そしてこのままだと、必然的に彼女は一生お前の前に現れなくなる。」と言う。脅しだろう、と思う葉月だが、確かに何故一度助けただけで友達になりたいと思ったのだろうと、同時にいくつか彼の中に疑問が生じる。立ち止まる葉月に、女性は「このままだと、皐希は殺される。」と告げた。

 

 父親を殺したのと同じ人物と、さらに告げる。そして彼が殺されたのも、皐希が殺されるかもしれない理由も、原因は葉月にある、と女性は言った。

 

 もし、それが本当ならと思うと背筋が凍る。自分のせいで、誰かが死ぬのが辛いのは繰奇が死んだときに既に実感していた。葉月は聞く。皐希は今、どこにいるのかと。女はついてくるよう言った。

 

 着いた先は廃校。最近ここを拠点をしている小隊がいることを情報に女性は言った。攻める前に、忠告と確認をする女性。「危険なことになっても皐希を助けたい。」と答える葉月だった。

 

 理解した女性は自己紹介をした。名は「長渡瑞歩(ナガト ミズホ)」と。

 

 窓から侵入し、皐希が捕まっている場所まで走っていく。わかりやすく体育館に彼女は椅子を縛られていた。葉月たちがきたとき、彼女の首元に刃が向けられていた。

 

 遠隔で刃を首元から離す葉月。邪魔が入ったと感じた一人の男が葉月に集中攻撃を仕向けようとする。が、それらの攻撃を長渡が全て相殺する。皐希のもとへ突っ込む葉月。縄に縛られる皐希を開放し、彼女を保護した。長渡を呼び、廃校から脱出した。

 

 時刻はまだ19時半、ようやく日が落ちたぐらいの時刻だった。皐希は思わず、葉月を抱きしめ、涙声に近い声で礼を言う。その光景を見て、安心したのか長渡は立ち去ろうとする。葉月は長渡に礼を言った。すると彼女も葉月に礼を返し、その場から立ち去った。

 


【第二章】
 夜23時を過ぎた頃だった。長渡はガソリンスタンドに設置されているラジオから報道番組を聞いていた。番組はどこかの国で今まで続いていた紛争がなくなったこと、国内で犯罪が増えていることを取り上げていた。

 

 ひとりの評論家が饒舌に解説する。その解説を聞き、長渡はため息をついた。まったくもってくだらない、と。

 

 ガソリンスタンドの店員が近寄ってくる。今日はどのような用事で来たのか尋ねた。長渡は安い宿を探していると言う。理由を聞かれた長渡は簡潔に、事の経緯を話した。ただし、葉月と皐希の事は一切、話さず。なんだったら自分の家に泊まってもいいと店員は話すが、長渡はそれを断った。彼女は店員を信用できなかった。なぜなら彼もまた、長渡と同じ者だから。

 

 ガソリンスタンドを去り、とりあえず繁華街へと向かう。その途中、多摩川をまたがる橋を渡る。

 

 彼女は帽子を被った男に話しかけられる。それは先ほどの小隊が所属する組織の一員であり、組織の幹部も勤めている者だった。彼の名前、尼野台(アマノウテナ)を呟く長渡に、知ってもらえて光栄だと、大袈裟な手振りをしながら応える。尼野は長渡の事を不愉快だと言った。彼女は自分と同じ組織の一員にも関わらず、葉月を殺さない上に彼の手助けをし、挙句の果て罰を受けるはずだった皐希さえも助けたことを、許さなかった。それでどうするつもりなのかと聞く長渡に尼野は答える。憂さ晴らしにお前を捕まえ、めちゃくちゃにしてやると。

 

 次の瞬間、彼女の周りに数人の部下が現れた。しかし誰もが長渡を捕まえることは出来ずに逃げられる。すぐに追えと尼野は怒鳴るように命令した。逃げる長渡の隣に突然銀色の狐が現れ、長渡の隣を並走していた。そしたはたまた突然、ついて来いと話す狐。その狐は橋から暗闇へと跳び去った。同じ箇所に長渡も飛び降りる。着地してみたらそこは砂利で出来た陸地で、そこから長渡は狐と共に多摩川の河川敷へと跳んでいく。そんなことも知らず、尼野の部下は長渡が消えた辺りをキョロキョロと探し回っていた。

 

 長渡は狐に礼を言う。彼女はこの狐の正体を知っており、その名前もまた呼んだ。狐は人型に変化する。狐の正体は葉月の育て母親、空良だった。空良は息子を助けたお礼だと答える。彼から無理矢理聞きだしたらしい。

 

 空良は長渡に家に来るよう提案する。しかし、長渡はこれを拒否する。ただでさえ、狙われている彼と共にいるのはあまりよくないと長渡は思っていたからだ。しかし彼女の案を空良は否定し、無理矢理泊まらせる。

 

 明くる日、長渡はこっそりと家を出る。

 

 駅前はがらんとしていた。空は明るいが、まだ日がビルの合間から覗いていない、そんな早朝なのだから当然といえば当然なのかもしれない。静かな駅前を歩いていると、裏路地の方から声がする。聞き覚えのある女性の声に、長渡は心配になり探す。

 

 だいぶ奥まで来ると、尼野の妻であるはずの愛子(アイコ)を、人間の男性が押し倒していた。長渡が止めようとすると男性は抵抗を見せる。自らの異能を長渡に当てようとするもそれを避けられる。どころか、近づいた彼女に急所を切られ、男性は混乱でその場にうずくまる。その隙に長渡は愛子の手を引っぱった。

 

 裏路地を出て、愛子の手を離す長渡。何があったか聞くと、どうやらあの男性は愛子の知り合いらしい。彼は大学時代初めて愛子と出会い、その後友人として交際を続けていた。その事がこの前会社でばれたらしく、気味悪がれたらしい。おそらくあの男性はそのストレスを愛子にぶつけようとしたのだ。

 

 話を変え、暫くの間会えなくなる事を愛子に告げる。どこに行くのか、当ては無いことも彼女に伝えた。別に愛子に言っても彼女は夫には何も言わないとわかっていたからだろうか。

 

 再び駅前まで辿り着くと、今度は寝起きであろう葉月と出会う。彼は長渡にどこに行くのか聞いた。勿論、長渡はあてがない旅に出ると答える。すると葉月は一緒に連れて行って欲しいとお願いしてきた。異能の修行も兼ね、長渡と共に行動したい旨を彼女に伝える。が、長渡は気が進まなかった。おそらく先に自分の所に来るであろう、尼野の対処をどうすべきか迷ってしまう。

それに、皐希のこともある。

 

 葉月は答えた。皐希に関しては空良が保護しているから、特に心配はない。それに尼野に関しては、自分も狙われる身なのだから変わりないと。そしてなにより、彼はどこまでも食い下がるつもりでいた。この先どうなっても構わないという彼の言葉を長渡は信じ、葉月を連れて行く事にした。

 

 

【行間 一】
 遠い昔の記憶。まだ虚ろな意識のみ持つ自分に、女性は優しく語り掛ける。自分が浸るポッドから、隣にもうひとつ同じ物がある事を知っている。そこにはまだ生まれて間もない姿をした赤子が、自分と同じく液体に浸されていた。

 

 

【第三章】
 長渡は葉月に異能について尋ねた。

 

 東京では急激に異能持ちの人間が増えており、彼らの中にも犯罪を犯す者がいて問題になっている。警察側には今の所異能持ちはいない。異能持ちの人間を急遽雇っているということを話す。

 

 警察側につくのだろうか、葉月は聞いてみたが長渡はそんなつもりが全くないらしい。と、いうのも実は警察側には既に長渡が所属していた組織の事がばれており、長渡もまた、既に特定されていた。まだ大きな犯罪は犯していないので指名手配はされていないが、組織の一員として監視されている可能性があり、下手に見方につくこともまた難しい。ひとまず、東京から離れ、一度神奈川に行くことを決心する。

 

 電車に乗ろうとしたその時、改札口から尼野の部下が出てくる。南口と、北口からも奴らは現れ、二人は囲まれてしまった。数十人いるかと思われる奴らを見て長渡は冷静に対処できると考える。葉月に関しては、彼に護身用の妖刀を渡す。素人でも簡単に使いこなせるらしいその刀なら、葉月でも大丈夫だと長渡は判断し、先に攻撃をしかけた。

 

 躊躇無く部下達を斬る長渡。叫ぶ奴らとは裏腹に冷静な表情を続ける彼女を見て葉月は驚いていた。

 

 部下を全て殺し、駅から離れる二人。葉月は長渡に聞いた。何故、そこまで冷静に相手を殺すことが出来るのだと。それは彼女にとっては愚問でしかなかった。なぜなら彼女は生まれてからすぐに戦闘の訓練や教養のみを受けられていたのだから。彼女は神によって作られた人形であるのだから当然だと彼女は話す。

 

 唖然とする葉月を放置し、長渡は神奈川への道を進もうとした。ひとまず八王子から離れ、様子を見てから電車に乗ることを考える。乗車さえずれば、組織は手を出すことはないと、長渡はそう予想した。片倉方面を目指し、最終的には神奈川のはしもと駅まで歩くことにする。

 

 時刻はおそらく朝7時を過ぎた頃。

 

 通勤や部活の為に通学する学生とは反対の方向へ進む男がいた。長渡がよったあのガソリンスタンドの店員である。深夜担当の彼はようやく仕事が終わり帰路につく、はずだったが後ろから誰かに呼び止められた。帽子を深く被り、スポーツサングラスをかけた尼野だった。止まって欠伸をする男に尼野は聞く。内容は勿論、長渡の行き場所。しかし男は彼女の行き場を知らない。これは本当の事だった。自分の部屋に泊るよう勧めたが断られた、と答える男。しかし尼野は信用しない。証明するために家まで着いて来てもらった。

 

 その途中、尼野との会話はごく普通の社会的問題だった。ほぼ無関心な男に対し、尼野はどちらかというと過激派だった。いつか必ず神に勝ち、日本は妖怪のものになると主張する尼野の意見を流す。男はただひとつ、答えた。「優劣を差別に使う以上、争いが終わる事はない」と。男の家に着き、尼野に部屋を見せる。そこに長渡の姿は、勿論ない。

 

 日が完全に昇った頃、ようやくはしもと駅に辿り着いた二人は相模線に乗っていた。通勤通学ラッシュが終わり、乗車客も少ない。あまり寝ていない長渡は思わず葉月に身を預け寝てしまう。葉月は勿論、寝れるわけがない。

 

 乗客をチラリと見て、先ほど長渡と話していた事を思い出す。

 

 彼女は言った。この世にいる人間と名乗る種族。少なくとも半分は人間ではないと。彼らは神と妖怪が成りすました仮の姿という。区別があるとすれば、異能持ちか否かということ。妖怪がいるという事は母親の空良がそうなのでわかっていた。とすれば、異能持ちの自分もまた妖怪か、神なのかと悟る。

 

 なんにせよ、彼の意志はただひとつ。これ以上、自分のせいで誰かを死なすなんてことはしない、させないと。長渡も含め、全員を守ると誓っていた。

 

 途中で長渡は起きる。そして乗りかえの駅に着いたのか、彼女は立ち上がった。葉月もあとを着いていくことにする。

 

 

【第四章】
 駅を降りる二人。しかし目的地まではまだ遠いらしい。ここから先は電車に乗ってると同じ組織の者に鉢合わせるかもしれないからだとか。

 

 再び歩きで地道に進むことになるが、夏の暑さに葉月は参りかけていた。仕方ない、と思った長渡は近くのファーストフード店に寄ることにした。美味しく食べる葉月と、特にリアクションもなく食べる長渡。まずいか聞いたら別にと返されてしまった。どうも、戦いのこと意外はほぼ無関心だと話す。戦っていればそれでいいと言われ続けていたから、他の事に興味をおくことは滅多に無い。もし、戦いがこの世からなくなったらどうするか、葉月は聞いた。彼女は暫く黙った後、それなら自分も死ぬまでだと答える。そう言って笑う彼女だが、なんとなく本気で言ってるようにも思えてしまうから、葉月は苦笑いでしか返せなかった。

 

 しかし長渡にも例外はあり、興味があるものにはとことん追求したくなるようで、彼女は葉月に様々な質問をする。ファーストフード店を出ると近くの映画館の告知で「明日世界が崩壊するとわかったら、あなたは何をしますか?」という言葉が流れる。自分は気に入らない人間がいたらそいつを殺すと答えたあと、長渡は同じ質問を葉月にした。

 

 葉月は好きな人と一緒にいると答えた。

 

 目的地手前で組織の者と出会う。先に進みたいが、向こうはそうしてくれなさそうだった。長渡は葉月に告げる。最期の時に好きな人と一緒にいたいなら、ここでつかまるわけにはいかない。

 

 組織からなんとか逃げ切ってから、ようやく目的地へと着く。鎌倉のとある宿舎だった。長渡の友人が経営しているらしく、また組織とは違うので安全かもしれないと長渡は考えたのだ。

 

 部屋を空けておくようお願いしてから、再び二人は出かける。その先はボルタック商店だった。そこで今度は預けていた刀を返してもらう。もうひとつの妖刀。宿舎に帰ると今度は軽く異能の使い方と、妖刀の簡単な使い方を教えてもらう。そうしていくうちに日が暮れた。温泉に入り、夕飯を食べると、葉月はあっという間に寝てしまった。彼の寝顔を隣に寝ながら眺める長渡だった。
 
 翌日の朝、物音で目が覚める葉月。長渡がどこかに出かけようとしていたのだ。着いてくるかと聞かれたので着いてくることにする。

 

 海岸沿いの道路。どこにでもあるような感じの道路に着いたころ、丁度日が昇り始めていた。ほんの少しだけ漏れ出す日の光に、思わず目を細める葉月。彼に長渡は自分の生い立ちについて詳しく話した。戦いの中でしか自分はきっと生きられないということも、戦いがなくなることが実は怖いということも、そんな自分の考えがあって、昨日はああ答えたんだと長渡は言った。本当にそうなのだろうか、と葉月はその考えを疑問に思う。きっと長渡にも戦い以外の道があると。

 

 なんなら、自分がその手伝いをすると、葉月は言った。

 

 いつになるか解らない、けれど道は必ずあるから。だから今ある戦いを必ず終わらせよう。何年、何十年とかけても。

 

 思いがけない返事で、長渡は戸惑うが、すぐに礼を述べた。

 

 

【行間 二】
 赤子が盗まれた。普通の人間の男らしき人間に、だ。

 

 既に訓練を始めていた為赤子の追跡に加わることになる。そして逃走中の男を捕まえ、赤子を取り戻そうとするが失敗する。彼は普通の人間のようだが、邪術を使いこなしていた。

 

 戦いに敗れたが、男は殺そうとしない。男は自分が赤子と同じく作られた身だということを知っていた。既に戦いの中にいる為、すぐには助けることが出来ない。けれど、この赤子を育てた後に、再び会いにくるかもしれないと男は言った。

 

 彼は結局自分を殺さずに立ち去っていった。

 

 

【第五章】
 暫くの間宿舎にいた二人だったがそうもいかなくなった。組織に自分達の場所が特定されたそうだ。二人が寝ている間に奴らは侵入してきた。人質として宿舎の者たちをとられてしまった以上、行かないわけにもいかない。

 

 捕まったのは長渡のみで、そのころ気絶させられた葉月は置いてかれた。

 

 彼が起きたころには既に長渡も組織の者もいず、宿舎の者から話を聞いた。宿舎を飛び出し、長渡を探そうとする葉月に、男がやってきた。尼野がいそうな場所がわかると葉月に告げる。あてがない以上、選択肢があるならかけるしかない。そう思った葉月は男についていくことにした。

 

 長渡が連れて来られた場所は神奈川のどこかにあるとある工場。ロープで縛られ、抵抗の出来ない状態にさせられる。

 

 暫くして尼野がやってきて、長渡に聞いた。葉月を捕まえることに協力するなら、命は助けてやると。しかし長渡は決して首を縦にふらない。

 

 すぐに男と葉月が工場へとつく。車から降りて、工場と道を隔てる鉄格子を乗り越える。警備で回る尼野の部下の目を掻い潜り、時には部下を気絶させ、奥へと進む。

 

 ただひとつ、不自然に開いている倉庫があった。中からは尼野の声が聞こえる。よく見るとそこには長渡が縛られており、痣が増えている。それでも彼女は屈さず、弱音をはくことなく、ただただ尼野を睨んでいた。

 

 その光景をみたせいか、葉月の中でなにかが変わった。正確には、頭の中でスイッチがきりかわったのだろうか、倉庫の中へ突っ込み、尼野の目の前まで、その勢いで尼野を吹き飛ばした。持ってきた護身刀で縄を切り、長渡を解放する。襲い掛かる尼野の部下をなんなく切り殺し、残るは尼野のみ。

 

 この前とは違う、何かが彼の中で目覚めたと尼野は確信する。殺された多くの部下、二度の失態は許されないという状況もあり、尼野は自棄になる。いっそふたりまとめて葬ろうと考えた尼野は、まず最初に葉月に襲い掛かった。葉月相手に思ったよりも苦戦していることに苛立ちが増え、あらに自棄になる尼野。その時だった。倉庫の入り口から光が入り込み、倉庫内が爆発する。

 

 一瞬気を失いかける長渡。意識がしっかりすると同時に尼野の叫び声がする。葉月がやったのかと思い声がした方を見るがそこにいたのは尼野と、学生服を着た知らない男だった。自分の名前を呼ばれ、呼んだ者のほうをみる。白髪に白髭、還暦を迎えていそうだと思うくらい、年老いた男だった。

 

 男は長渡を助けに来たという。しかし提案する条件は尼野とほぼ同じ。今度は葉月を完全に殺す事を条件としていた。どこかに隠れてわからない彼を探し、見つけ次第殺せ。

 

 今度は強行突破は出来そうに無かった。学生服を着た男女が何十人と長渡のほうを見る。それぞれ自分の得物であろう武器を構えた状態で。しかし長渡は承諾しない。悪がきのような笑みを浮かべ、首を横にふった。

 

 

【行間 三】
 あれから十数年と時が経った。赤子だった少年の居場所がわかり、盗んだ男を殺すことにも成功したという情報が自分の耳に入った。少年は既に異能としての力を目覚めていたが、自分とは違い人間のような心を大きく育んでしまったため、抵抗するかもしれないと考えた上は最悪殺してもかまわないという決断をした。少年の持つ異能が手に入れば、別に少年は生きていようが死んでいようが変わりないらしい。

 

 組織はひとりの少女を出動させた。しかし作戦は一向に成功せず、挙句の果て少女は殺すことが出来ないといってしまったらしい。少女は処刑されることになった。少女の友人だったため、助けようかと考えていた矢先、少年を見つける。もうこの少年の運命は決まっている。ギリギリまで平穏の中にいるくらいなら、少年が自らの意志で運命に立ち向かえるよう、あらかじめ知るべきだとなぜかその時考える。

 

 そして自分は少年に近づき、聞いた。「自分の真実を知りたいか?」と。

 

 

【第六章】
 人数が多かった。だんだん疲れてくる長渡に対し、相手の数はようやく半分をきったところ。その時だった。老人が大きな光を作り出す。倉庫内を爆発させたあの弾だった。その光をそのまま被弾する長渡。しかし彼女は怯まない。葉月が助かるためにも、ここにいる敵を殺さねばならない。そういう思いが彼女の中にあった。彼女にとって、ここまで誰かを思うことは初めてだった。何故ここまで葉月を守りたいと思うのか、彼女自身にもわからない。けれど、その思いがあるからこそ、今戦える。

 

 やがて長渡はそこにいた者すべてを倒した。ただひとり、老人を除いて。彼は撤退したようだ。爆発のせいで倉庫の壁が吹き飛んでいる。そこからはかすかに明るくなり始める水平線が見えた。
 長渡は膝をつき、直後にうつ伏せに倒れる。
 暫くして、何かが這う音がした。吹き飛ばされた勢いで頭を強打し、気絶していた葉月だった。現状がすぐに理解できなかった彼だが、その場に倒れこむ長渡を見てただ事ではないと感じる。すぐに長渡の下へ駆け寄り、彼女を仰向けにした。何度も呼びかける葉月。目が少し開いて、葉月のほうを見る長渡。彼女は葉月に謝った。戦いが終わっても生き残る事は出来なかったと。すぐに病院に行こうと言う葉月。だが長渡は首を横にふる。事実、彼女の体は既に手遅れだった。

 

 自分の分まで生きて、残った人たちを守ってと葉月に告げる。彼は涙をこらえ、ただひたすら首を横にふった。彼の頬をなでようと、自分の手をあげようとする。ひかしそんな力はもうなかった。彼の頬に辿り着く前に、振り上げた右腕は地面に落ちる。

 

 適わなかった願いに、大切な人の死に、葉月はひとり泣き叫ぶ。その様子を見ていたのは、やがて見せ始めた朝日のみだった。

 

【終 章】
 葉月は一度自宅に帰ったが、その後、再び帰ることは無かった。否、帰ろうと思わなかった。

 

 一日かけてやっと自宅に帰るが、空良が傷ついていたことと、皐希がいないことに気がつく。組織に連れ去られたとすぐに気がつき、葉月は家を飛び出す。立ちはだかる敵も全て完膚無きまでに殺しつくした。彼はもう、誰かを守ろうとは思わない。

 

 どんなに願っても守ることが出来ないならば、いっそ何もかも壊してしまえばいい。

 

 彼はそう思うようになっていた。